2018年7月14日土曜日

2.5番目のわが子へ

私の長男と次男は3歳違い。
次男と娘は5歳違い。
2番目と3番目の間が5歳開いているが
本当はその間にもう一人、生まれるはずだった子がいた。

今日は、その子について綴ろうと思う。


3番目の子供を妊娠したのが分かったのは、次男が2歳を過ぎた頃。
既に二人も出産しているし
上二人の時、妊娠中の経過はすこぶる良好であった。
だから次の妊娠も、何の問題も無いと思っていた。

それよりも、次は男の子か女の子か。
そればかり気になっていた。
3番目は女の子が欲しかった私は
また男の子だったらどうしようとさえ、思っていたのだ。



もうすぐ妊娠4ヶ月目になろうという頃
私は2週間だけのパートに出ていた。
パート最終日の日曜日。
お手洗いに行った時、少量の出血があるのに気付いた。

まさか、と思ったが、途中で帰れないパートだったため
何とか最後まで仕事をし、退勤後タクシーに飛び乗って
定期健診をしている病院に向かった。

日曜日のため救急外来受付に行き、事情を話したが
あいにく日曜日のため、ドクターはお休みである。
ナースがドクターに電話をし、私は緊急外来から病棟に運ばれて
お腹にモニターを付けて横になっているしかなかった。

ドクターが来るまでの時間が、とんでもなく長く感じられた。
なぜ、何も処置しないのか。
ジリジリとイラつく気持ちを抱えながら、どこかで
この子はもう助からない。
そんな予感がした。



ようやくドクターが到着し、超音波検査をしたが
結果は、心臓が止まっているということだった。

まさか、と思った。
今までの妊娠経過は順調で、流産の兆候は何も無かったのに。
呆然とするしかなかった。

翌日、流産の処置を終えた時
襲ってきたのは後悔の嵐だった。
なぜ、昨日もっと早く病院に来なかったのだろう。
赤ちゃんに比べたら、パートなんてどうでも良かったのに。

なぜ、マレーシアなんかにいるんだろう。
日本の病院だったら、助かったかもしれないのに。

なぜ、男の子だったらどうしようなんて思ったんだろう。
無事に生まれてくれるのなら、性別なんてどちらでも良かったのに。

沢山の「なぜ」と後悔が押し寄せて
涙が止まることなく溢れた。




1週間後、検診のため再び病院を訪れた私は
担当のJ先生に、やり場の無い気持ちを話し
「なぜ、こんな事になったのでしょう。」と尋ねた。

J先生は腕の良い女医さんで、ご主人と共に産婦人科医として
同じ病院にクリニックを構えていた。
とても敬虔なイスラム教徒であり、マレー系の妊婦さんに
大人気のドクターだった。

この時、J先生が私に語ってくれた言葉は
今もはっきりと覚えている。



「なぜこうなったか、は私達医者にも分からない場合が多いのです。
妊娠初期の流産は、確立としては高く、成長があまり良くない場合の
自然淘汰として起こる事が多いのです。」



そう説明した後、J先生は穏やかに微笑んで
こんな話をしてくださった。



「時として、私達の人生には、受け入れがたいことが起きます。
どんなに受け入れがたいことでも、起きたことは変えられない。
そんな時私は、なぜ、を繰り返すより
その出来事のポジティブな面を見るようにしているのよ。

今回、流産をした。それは事実です。
でも原因は、はっきりとは分からない。
恐らくは何か、受精卵に問題があったのかもしれない。
それで自然淘汰されたのかもしれない。

もしも淘汰されなければ、障害を持って生まれてきたかもしれない。
それは誰にも分からない。
だとしたら、これも一つの、神様のお計らいなのですよ。

私を見てごらんなさい。
夫と私は二人とも産婦人科医で、今まで千人以上の
赤ちゃんをとり上げてきたけれど
自分の子供はひとりも産めなかった。


「J先生は産婦人科医のくせに、自分の子供は産めないのか。」
って人は言うけれど、これもひとつの、神様のお計らいだと思っている。

出産はできなかったけど、養子をもらって
子育ての喜びを経験しているわ。

実子でも養子でも、命の大切さには変わりは無い。
子供を生んでも、生まなくても、女性であることには変わりは無い。
それを教えてくださった、神様のお計らいだと思っています。


あなたには二人のお子さんがいらっしゃる。
大切なお子さん達でしょう。

まずは身体を回復させて、そしたら
インシャッラー(神の御心あらば)、また妊娠も可能になるでしょう。」



その2年後、私は四度目の妊娠をし、今度は無事に出産をした。
女の子だった。
「女の子が欲しい」という願いが
憑き物が落ちたように消えた後のことだった。



今思えば、生まれなかった子は
私の傲慢さを挫き、命の大切さを教えてくれたのだと思う

私は子供たちに、2.5番目の子のことを繰り返し語り、
今はいないけど、あなた達のきょうだいだよと教えてきた。

そして、名前を付けて、今でも時折ありがとうと呟いている。
この名前は、私だけが知っている秘密の名前だ。




生まれてこなかった2.5番目のわが子へ
あなたの兄妹は、無事に大きくなっています。
あなたのことは、一生忘れない。
腕に抱くことはできなかったけど
私の心の中で、いつもあなたを抱いているよ。




マレーシア クアラルンプールより愛を込めて
Nana






















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