「私は若い頃、ハイヒールとタイトスカートしか履かなかったのよ。」
私が子供の頃、母はよくそう言っていた。
子供心にも、母は美人だと思ったし、
アルバムの中の、独身時代の母はとてもお洒落だった。
だが、私の実家は自営業でとても忙しくて、
いつしか母がハイヒールを履くことはなくなり、
タイトスカートも履かなくなった。
今、80歳になった母は認知症になり、
身なりに全く構わなくなってしまった。
若い頃あんなにお洒落だった母なのに、髪はボサボサで、
ほつれていたり、破れた服も平気で着てしまう。
それでもまだ言い張るのだ。
「私は昔はハイヒールしか履かなかった。今でも履こうと思えば履けるんだから。」
そう言って出してきた箱の中のハイヒールは、
すっかりカビが生え、皮がひび割れて、
とても履けるような代物ではなかった。
私はそんなハイヒールを見て、なんとも言えず物悲しい気持ちになった。
母の時代、女性の価値観は家族優先、妻として母としての役割が全てだった。
自分のしたいことがあっても、家族や子供のことを優先してきたに違いない。
家事と育児と仕事に追われて、ハイヒールで出かける時間など
とても無かったのだ。
いつかあれをしよう。仕事を辞めて時間ができたらこれをしよう。
母は、そう思っていたことだろう。
でも、その「いつか」はもう来ない。
母は、「昔の素敵だった自分」と、カビたハイヒールを抱えたまま、
今生の生を終わるだろう。
それがいいとか、悪いとか言うつもりはない。
それが母の生き方で、母の一生なのだ。
だから、私は世の全ての女性に伝えたい。
やりたいことがあるなら、「いつか」ではなく、
今すぐ、どんなに小さなことでもいいからやって欲しい。
ハイヒールが好きなら、履けばいい。
お洒落が好きなら、すればいい。
今、とてもそんなことが出来る状況に無くても、
お気に入りのハイヒールに一日5分、
家の中で足を入れてみるだけでもいい。
ハイヒールを履いたことが無くても、
いつか履きたいと憧れているなら、
ハイヒールを履くためのエクササイズを始めてもいい。
真っ赤な口紅が好きなら、唇にひいてみればいい。
踊るのが好きなら、踊ってみればいい。
私たちが生きている今は、
母たちの時代よりずっと、何でも自由に出来る時代のはず。
それなのに、自分が好きなこと、美しいと思うこと、
やりたいことが出来ず、縮こまって生きている女性は少なくない。
全ての女性は、美しく、楽しげに、健やかに生きる権利がある。
自分が美しいと思うなら、誰はばかることなく、
その美を享受して良いのだ。
今すぐ、100%は無理なら、1%から始めればいい。
環境や、年齢や、その他の理由で、美しくあること、
自分が大好きなことを決して諦めないで欲しい。
自分の想いを、脇に押しやることはしないで欲しいのだ。
自分の手で舵を切ろう。
どんなに小さなことでも。
やりたいことをやる、と意思表示して行動を始めること。
それが、女性の自立への一歩なのだから。
私は、ハイヒールを通して、
美しくありたいと一歩を踏み出した女性のお手伝いがしたい。
美しくあることに、年齢や環境は関係ないと証明して、
私に出来るのだから、あなたにもきっと出来ます、と伝えたい。
美しく、楽しげで、健やかに生きる女性が増えれば、
世界はきっと美しく平和になる。
コンサルティングを始めてちょうど1ヶ月の節目として、
今思うことを綴らせていただいた。
マレーシア クアラルンプールより愛を込めて
nana
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